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「ゴジラ」は語る
2025年5月1日
澤田 修(NPO政策研究所会員・香芝市在住)
1945年3月に東京や大阪など各地で大空襲、8月には広島と長崎に原爆が投下されるなど、多くの犠牲者を出した戦争が終結して、今年で80年になる。
占領の終わりを待つかのように1954年、映画「ゴジラ」が公開された。「ゴジラ」は何故つくられたのか、何を語ったのか。
ゴジラはジュラ紀から深海で生き延びてきた恐竜で、水爆実験によって怪獣となり、地上に現れて放射線を帯びた白熱光を放出しつつ街を破壊する。ゴジラの出現は、原爆の恐怖の再現でもあった。同年3月に第五福竜丸事件が起きており、当時の日本人は反戦、反核の思いが強かったと想像できる。
ゴジラは大戸島という架空の場所に現れ、その後東京を襲う。なぜゴジラは被爆国である日本を襲ったのか。大戸島の調査にあたった志村喬演じる古生物学者の山根博士は、ゴジラも水爆の被害者だと考え、映画のラストで「もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類が、また世界のどこかへ現れてくるかもしれない…」と警告を発する。平田昭彦演じる芹沢博士は、ゴジラをはじめあらゆる生物を殺せる酸素破壊剤を開発していたが、兵器として悪用されるのを防ぐため秘密にしていた。しかし、多くの犠牲者を目の当たりにし、ゴジラを止めるためには使用をせざるを得ないと決意。その製造法が悪者の手に落ちないように、ゴジラとともに生命を絶った。私には、芹沢博士が原爆を開発したとされるオッペンハイマーとだぶる。
第1作目が評判となって以後、多くのゴジラ映画が撮られ、米国でも製作されている。回を重ねるとともに、惨禍をもたらす「敵」から、怪獣を倒す「味方」として描かれるようになった。核の恐怖のメッセージが弱まり、原子力発電所のような平和利用が進む動きと併せるように、ゴジラの役割も変化していったのではないか。
ゴジラは、その時々の時代背景の中でつくられてきた。2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故以降、国内外でゴジラが再評価された。2016年に「シン・ゴジラ」が上映され、2023年にはゴジラ生誕70周年記念として「ゴジラ-1.0」がつくられた。後者はアカデミー賞視覚効果賞を受賞しただけあって、VFXが駆使され、ゴジラによって東京が破壊される映像が生々しい。改めて、何故日本を攻撃するのかと思った。
最近、吉見俊哉著の『アメリカ・イン・ジャパン』を読んで、アメリカが西部開拓から太平洋、さらにアジアへと向かう西漸運動の先に日本を見据えていたことを知った。なるほど、だから日本が攻撃されるのか、と腑に落ちた。となると、日本をはじめ世界を混乱させているトランプ関税は、今様の“ゴジラ”なのかもしれない。
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